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杉森健一
イランの良さを伝える杉森
25歳の時に出た世界の旅の途中にてイランを訪れ、ハマる。その後はイラン渡航を繰り返し、現在は雑貨店運営・旅行業・フェス事業・執筆業など幅広くイラン関係の事業に携わりつつ、SNSやマスメディアなどでイラン情報を発信中。
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イランと経済制裁〜制裁とは何のためにあるのか?〜

今回のテーマは「イランと経済制裁」。

実はイランは世界で最も経済制裁を食らってる国。 この記事では、なぜ、どのように、どんな風にイランは経済制裁を課されているのか、という点を解説していきます。

目次

中東の大国、イランの経済力とは?

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テヘランのシンボル・アザディータワー

豊富な資源と技術力

石油は世界3位、天然ガスは世界4位の埋蔵量を誇る資源に恵まれたこの国は、日本の6.5倍の国土を持ち、人口は8500万人。

バザールに行けばイラン産の色とりどりの野菜や果物が所狭しと並び、街中ではメイドインイランの車や単車がひしめき合う。

資源に恵まれ、農耕地も十分にあり、工業技術だって発達している国、それがイラン。

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バザールにはイラン産の果物がぎっしり並ぶ

停滞するイランの経済

さて、そんなイランの経済力はいかがなものなのでしょうか。

経済力を図る指標のひとつ、GDP(World Bank・2020-2021年・名目GDP)で見てみると、イランは約2300億UDSで世界50位。 この数値は、世界一のアメリカの1/100(約23兆USD)、日本(約5兆)と比較しても1/20ほどの規模にしかなりません。

豊富な資源に十分な技術力を持つイランの経済が、なぜこんなにも弱いのでしょうか?

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イラン南西部・ハールク島の石油貯蔵施設

その原因こそ経済制裁

イランの経済が弱い理由ーそれは政府の経済政策が十分に機能していないなどの点もありますが、一つの大きな理由が長年世界規模で行われてる「経済制裁」です。

イランのGDP成長率のグラフを見てみると、経済制裁の効果がハッキリとわかると思います。

イランと経済制裁_イランの経済成長率

ちなみに、日本・中国・イランの経済成長率を比較するとこのような感じ。

イランと経済制裁_経済成長率の比較(イラン・日本・中国)

いかにイランの経済が不安定か、ということが一目でわかるようなグラフとなっています。

では、本テーマである「経済制裁」に関して詳しく見ていきましょう。

イランと経済制裁のお話

そもそも経済制裁とは?

経済制裁とは「国際的な秩序を守るため、国際ルールに違反した国へ与える懲罰」の一つで、種類としては大きく2種類。

①国連やEUなどの決議のもので複数の国が足並み揃えて行うもの
②特定の国が独自の制裁を行うもの

2022年現在、大規模な経済制裁を課されている主な国としては、北朝鮮・ロシア(ウクライナ侵攻後)・アフガニスタン(タリバーン政権)など。もちろんこの記事のテーマであるイランもです。

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国連安保理でイラン制裁が決議される様子(2007年)

原因は「核開発」

イランが制裁を課せられている理由は「核兵器製造」の疑いがあるため。

そもそもなぜ核兵器を製造してはいけないのでしょう?

その理由は、世界には「核不拡散条約(NPT)」という世界平和の為に核兵器を所持してはいけない、という世界約190ヵ国が加盟しているルールがある為です。

参考:核兵器不拡散条約(NPT)の概要 / 外務省

核不拡散条約と核保有国

核兵器を所持してはいけない….あれ、でもアメリカとかロシア、北朝鮮とかは核兵器持ってないの?

そう、彼らは持ってます。 というのも、NPTには例外があり、アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国の5カ国だけは核保有国として特別に所持が認められています。その他の国は、核兵器を持つ事も開発する事も認められていません。

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フランスの核実験の様子(1970年)

ただ、北朝鮮は世界からハブにされようが核を持ちたい!ということで、2003年にNPTを脱退し、現在は世界的にも核保有国として認知され、ご存知のように世界中から大きな批判を受けています。

で、そんな中イランは、この条約に批准しているにも関わらず、密かに核兵器を開発しているんじゃないか?という疑いを掛けられており、その罰として経済制裁を受けています。

ちなみにNPT認証核保有国やイラン、北朝鮮以外にも、核兵器の所持・開発をしている(疑われている)国はいくつかあります。

・インド(条約未加盟)
・パキスタン(条約未加盟)
・イスラエル(条約未加盟)
 など

上記のうち、イランのように大規模な制裁を掛けれてれいる国は北朝鮮くらいですね。

イランの経済制裁の始まり

さて、本題のイランの経済制裁ですが、その歴史は古く、反米政府が樹立した1979年からアメリカによる制裁を課せられています。

さて、本題のイランの経済制裁ですが、その歴史は古く、反米政府が樹立した1979年からアメリカによる制裁を課せられています。

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1979年の在テヘランアメリカ大使館人質事件

が、本記事では「反米政府に対しての制裁」ではなく、現在の制裁の中心的な理由である、2000年代から始まった「イランの核開発に対する制裁」を見ていきましょう。

核開発と経済制裁

元々イランは、欧米との関係が良好であった1950年代から原子力発電などの平和利用の為の核開発を行っていました。その中で、1970年にはNPTに加盟します。

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ケネディ大統領夫人が息子をイランの元国王パフラヴィー夫人に紹介する様子

しかし、1979年にイラン革命により反米政府が成立すると、アメリカの支援も止まり一旦は核開発をストップ。が、その後すぐに核開発は再開、1990年代にはロシアや中国の援助の元、核開発を進めていきます

そんな中、2002年に一つの転機を迎えます。 モジャヘディーネ・ハルグというイランの反体制組織が、イラン政府が新たに建築中の核開発施設の衛星写真を暴露します。

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モジャヘディーネ・ハルグの現リーダー、マリヤム・ラジャヴィー

というのも、核開発は基本的にIAEA(国際原子力機関)に計画などを申告し、IAEAが監査することによって、平和的利用から外れないようにしよう、という世界的なルールがあるので、申告無しでするってのは、はやましいことあるんじゃない?ということで、ここから世界からイランへの疑いの目が強くなります。

参考情報:国際原子力機関(IAEA)の概要 / 外務省

その後、欧米諸国との交渉の中で、一旦は「イランがIAEAの監査を受け入れ、核は平和利用しかしない」ということに落ち着きますが、徐々にイランがIAEAへの申告や監査を拒むようになっていき、2006年には国連安保理がイランに対して核開発の停止を求めます。

しかし、イランはそれを受け入れず、2006年12月に初めて国連にて制裁案が決議されます。

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国連安保理でイラン制裁が決議される様子(2007年)

当時の制裁内容は、

・核開発に関わる原料や技術の貿易禁止
・それに携わる個人や企業の資産の凍結

など、直接的にイランの核開発を止める為の制裁でしたが、当時のイランの大統領・アフマディネジャドは非常に強気な保守強行派の人で、イランの核開発に関しても一方的に「イランの核開発は平和的利用の為だけにあって、断じて核兵器を作る為ではない!」という主張を繰り返し、イランに対しての制裁を批判するのみで、まともに外国との交渉をしようとする姿勢を示しませんでした。

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保守強硬派だったアフマディネジャド元大統領

その結果、国連やEU、各国の二国間の独自制裁も強まっていき、遂にはイラン原油の輸入禁止やイランの金融機関との取引禁止などに拡大していき、イランの経済停滞は深刻化し、イラン国民の生活を襲います。

ロウハニ大統領と核合意

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イランで会談を行なったロウハニ元大統領と安倍元首相(2019)

しかし2013年に一つの転機が生まれます。 任期満了のアフマディネジャドに代わり、ロウハニが国民投票で大統領に選ばれます。 保守強行派で西側諸国に一切の譲歩を見せないアフマディネジャドに対し、ロウハニは穏健派で、西側諸国との交渉にも積極的に応じます。

2013年9月27日にはオバマ大統領との電話会談を行ったのですが、なんとイランとアメリカのトップが直接会話をしたのが、イラン革命の1979年以来で24年振りだとか。

そこから度重なる会談を重ね、遂に2015年7月、イランは6ヵ国(米・英・仏・独・ロ・中)と、「核開発を大幅に削減する代わりに経済制裁を段階的に解除する」という核合意(P5+1のJCPOA)の締結し、翌2016年の1月には国連による制裁が解除されます。 この歴史的な合意は世界中で話題になりました。 ここから、イランの経済も復活の兆しを見せるのです。

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ウィーンでのJCPOAの会談の様子(2015)

P5+1のJCPOA
P5とはPermanent 5の略で、国連安保理の常任理事国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5ヶ国のことで、+1はドイツ。JCPOAはJoint Comprehensive Plan of Action(包括的共同作業計画)の略。

イラン経済の劇的な復活

2016年の経済制裁解除からのイラン経済の復活は、先出のGDP成長率を見ても一目でわかるように、目を見張るものがありました。

イランと経済制裁_イランの経済成長率

イランの観光業界も外国人観光客が前年比150%と爆増し、全国でホテルの建設ラッシュが始まります。

多くの日系企業も再参入を目指し、中東の大国が持つマーケットを狙う動きが活発化しました。

まさにこの時イランは制裁から脱出し、この先に待つ経済発展に胸を踊らせるお祭りムードとも言えるようでした。 しかし、翌年に大きな悲劇がイランを襲います。

トランプ大統領による核合意破棄

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制裁復活の書類にサインするトランプ元大統領

経済制裁解除からたった1年後の2017年1月にトランプ大統領政権が発足すると、トランプ大統領は核合意への不満を露わにし、イランへの経済制裁を逆に強めて行くことを示唆します。

翌2018年5月には正式に核合意からの離脱を一方的に表明し、8月からは第一弾、11月からは第二弾と段階的にイランへの経済制裁を再開していくこととなります。

一方のイラン陣営も、翌2019年5月にはイラン側が制裁に対抗する形で核合意の一部停止を表明し、アメリカはそれに対し経済制裁の強化で牽制。お互いの溝は一気に拡大します。

その結果、核合意後に回復の兆しを見せたイラン経済も急速に低迷して行きます。

その後イランとEU諸国は核合意復活についての会談を行い、何度か核合意復活の兆しも見えましたが、2022年現在もイランの制裁は継続されています。

経済制裁の内容

そんなイランですが、具体的にどのような制裁を課せられているのでしょうか。

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日本政府の制裁内容

まずは日本が行っている制裁を見てみましょう。

日本政府としては、日本独自の二国間制裁は行っておらず、基本的には国連安保理の決議に則って制裁を課しています。

大まかな内容としては、こちらの3点。

【日本政府が行っている制裁】
・核活動と関係のある個人、団体との取引を許可制に。
・イラン関係者の日本の各関連企業への投資を禁止 。
・核関連の輸出に関しては外為法に基づき処理する。

日本政府は基本的にイランとの取引は認めているが、直接的な投資や核関連のみの取引を禁止してるという感じです。

参考:対イラン制裁関連 / 経済産業省

イランは石油を輸出できない

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日本は2020年6月現在、イランから石油の輸入を行っていません。 でも、先ほど見たように日本は「イランの石油輸入禁止」の制裁は行っていないですし、国連も2016年の核合意による解除以降、制裁は行っていません。

それなのになぜ日本はイランから石油を輸入していないのか?

その理由は、アメリカです。 アメリカが「アメリカはイランから石油輸入しません!そしてイランから石油輸入してる国にも制裁かけますよ〜!」と表明している為です。いわゆる「二次制裁」というものです。

日本からすると、イランから石油を輸入することでアメリカから制裁を受けられるなんてたまったもんじゃないですよね・・・ということで日本もイランからの石油輸入をストップしました。 第三国の貿易事情をも操れるアメリカ、すごいですよね。

お金のやり取りができない

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石油の輸出規制に加え、イラン経済に大きなダメージを与えている制裁としては、イランの銀行との取引禁止、というものもあります。

国が異なる銀行口座への送金はSWIFTという国際送金ネットワーク使用するのがポピュラーなのですが、SWIFTがイランの銀行を国際送金網から遮断したことによってイランへの送金が出来なくなりました。

加えて、日本の銀行は「イランと取引すると、アメリカの企業と取引できなくなるかもしれない」という懸念があるので、イラン関連の送金などのサービスは行っていません。

VISA、MasterCardはじめ、世界的に使用されているクレジットカードや、Paypal・Western Unionなどの送金サービスも制裁の関係でイランでは使用不可です。

イラン旅行に行く時も、クレジットカードやキャッシングなどが一切使えないので、イランに現金を持っていき、現地でイランリヤルに両替する、というのがイラン旅行の常識となっています。

対するイラン政府は仮想通貨で制裁網をすり抜けようとしていたり、

欧州諸国はSWIFTを使用しない送金システムを使いイランと取引をしようとしていたりいますが、まだまだ国際的にはイランへの送金は原則無理です。

国際送金が出来ない、ということはイランにとって単純に貿易することすら難しくなります。

その結果、イランの経済活動が極端に制限され、経済は低迷し、国民の生活に大きな影響を与える結果に繋がっています。

クリエイターの活動が制限される

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また、個人のビジネスレベルで考えてみてもこの経済制裁は大きな足枷となっています。例えばデザイナーやクリエイター。

イランは歴史的に芸術文化が高く、ハンドメイド文化も非常に発達した国で、今現在も多くのデザイナーはクリエイターが活躍しています。

イランと経済制裁_イランのクリエイターの作品やアクセサリー

しかし、イランの経済は長年低迷しており、国内での需要というものは日本と比較しても圧倒的に低いことは容易に想像できると思います。

するとどうでしょうか。この世の中「国外市場に進出する」ことが非常に容易になってきました。特にデザイナーであればオンラインでのデータ送付で済みますのでなおさらです。

でも、イランの場合は、例えデータはすぐ送ることができたとしても、その報酬であるお金を受け取ることが出来ないのです。今の世の中で国際送金なんて「出来て当然」ですが、それが制裁の影響で出来ません。

そもそもこの制裁は「イラン政府の核開発を防ぐため」の制裁でした。それが結果的に、一般の国民の自由を縛っていることになっているのが現状です。

制裁とは、何のために?

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この記事を通じて私が何をお伝えしたいこと。

それは「経済制裁は、国民の自由までも奪ってもいいものなのか」ということ。

確かに「イラン政府」が経済制裁を課せられることは、核開発に関して疑わしい行動をしている以上仕方がないことかもしれませんが、その影響を一番に受けているのは間違いなくイラン国民です。

政府のとばっちりで国民が苦しむ。

果たしてこのような状況を放っておいて良いのでしょうか。 本記事を通じ、イラン国民の生活に関わる問題少しでも興味を持って頂けますと幸いです。

また、こちらの記事では「制裁によるイラン国民に与える影響」を具体的に解説しています。是非、併せてお読みください。

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